2005.10.31UP

109回全国大学国語教育学会岐阜大会発表資料(2005年10月30日) 

ラウンドテーブル第4会場/『「国語力の基礎の学び」への臨床的アプローチ』[1]

『〈学習用語のカテゴリー化〉で〈国語学力〉を育てる』

岩見沢市立美園小学校 柳谷直明

「鍛える国語教室」研究会・空知ゼミ代表

    『言語教育への道』 Http://www.phoenix-c.or.jp/~naoir/

 

 1 楽しい言語活動を通して(授業方法),学習用語(授業内容)を指導する

教員養成系大学では何を教える必要があるのか。特に小・中学校での授業内容・授業方法を教えて戴きたい。小学校教諭を希望している学生は国語科の授業内容・授業方法を知らなくてはいけない。なぜなら小学校では,ほとんどの教師が国語科の授業を行うからである。国語科の授業を行わない教師も授業では言語を適正に運用する責任がある。

学生は小・中学校の現場で必要な授業内容・授業方法を教育実習前にあまり学んでいないようである。なぜなら授業に関わる知識に欠けるからだ。私は数年前から教育実習の事前指導を教員養成系大学で行っている。勤務校でも教育実習生を毎年受け入れ,関わっている。

学生を指導していると授業内容・授業方法が大学で指導されていないと推測される。例えば学習指導案に必要な実態評価,前時想起,机間巡視などの用語を知らない。国語科の授業内容・授業方法に至ってはほとんど知らない。

それ以前の問題もある。例えば話し方である。話し方の冗長さ,速度,声の音量,一文の長さ,子供達と視線を合わせないこと,「エー。アー。」などと不要の音を発することなどである。文章指導にも時間がかかる。抽象的な言葉を羅列し,何を言いたいのかがよくわからない。実習日誌には誤字・脱字がある。教育実習生の問題は尽きない。このような実態なので教育実習生を担当する指導教官は教員養成系大学では何を教えているのかと誰もが思う。

教員養成系大学で授業内容・授業方法を適正に指導していないのは,教科教育学で教科の授業内容・授業方法を具体的に示していないことに問題があるのではないか。

私は国語科の授業内容・授業方法がわからなかった。国語科の授業に困り『日本言語技術教育学会』の大会へ出席した。それでもよくわからなかった。そこで北海道教育大学函館校の野口芳宏教授(当時),岩見沢校の清野隆教授(現在)に学び小学校国語科で扱う言語活動(授業方法)と指導する用語を学習用語(授業内容)として体系化した。それを『〈学習用語のカテゴリー化〉で〈国語学力〉を育てる』(柳谷直明,明治図書,2004年3月)に書いた。

現在,授業で扱う言語活動に必要な国語学力の基礎・基本を学習用語として厳選し,それを明示する楽しい授業の開発に取り組んでいる。その教材例として『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』(全8巻,野口芳宏監修/柳谷直明/「鍛える国語教室」研究会空知ゼミ,明治図書,2005年10月)を書いた。学習用語を明示した教材集である。

子供に必要な言語活動を楽しい教材として扱う。その言語活動を適正に行為化させるため,子供の実態に応じた学習用語を指導する。学習用語を行為として身に付けさせることで国語学力を育てることができる。確かな学力を保障する国語科の授業内容・授業方法を提案する。

2 授業内容を学習用語として提案する

(1) 大学在学時

塾で小・中学生を教えていた。塾では効果的・効率的な授業を目指して指導していた。その結果,向山洋一先生,野口芳宏先生の書に出合った。そして教育技術の法則化運動に憧れた。

教科を絞った研究はしていなかった。どのように授業するかという授業方法が課題だった。自分の経験から公立小学校で行われている授業方法は効果的なのかという疑問を持っていた。

(2) 公立小学校への就職

公立小学校では音楽と国語の授業方法に悩んだ。音楽は研究会へ出かけて学ぶことができた。国語の研究会へも出かけたが,納得できる授業方法に出合うことができなかった。そこで現場に入ってからは国語の授業方法を特に考えることになった。

初任校では社会科の研究を進めた。地域社会と子供達の関係を個人の研究課題にした。子供達は地域を学ぶ機会が少ない。そこで地域の教材化に努めた。そして地域の稲作史を子供達とまとめた。学んだことを子供に表現させることで子供の学びが深まることを学んだ。

社会科の表現活動を扱うと子供達の言語運用能力の問題にぶつかった。作文,発表などの言語運用能力を国語科で更に指導する必要があった。そこで国語科の授業方法だけでなく,子供達の言語運用能力としての学力を高めるための国語の授業内容が課題になった。

校内の共同研究では国語科の音読を扱っていた。音読は全員が参加できる効果的な授業方法だと学んだ。しかし音読が上手でも市販テストで点数をとれない子がいることも学んだ。

図書の担当になった際,勤務校の図書に登録番号がないことに気づいた。そこで図書を整理するために司書教諭講習会で学んだ。その際,大学図書館で野口芳宏先生の全集の一端を拝読した。野口芳宏先生が指導された3年生が書いた作文の内容に感心した。

(3) 野口芳宏先生との出合い

 転勤先で出合った阿部貞夫校長は中学校で国語を指導されていた方である。阿部先生の影響で読書指導や作文指導に力を入れて取り組んだ。この時期から作文教育研究会へ所属し,国語の研究会へ出席するようになった。しかし効果的な授業方法には出合わなかった。

平成6年度の組合教研レポートを見ると「理解と表現の一元化」を提案している。表現能力を育てるために理解能力が必要であり,理解能力を育てるために表現能力が必要だという主張である。両者を意識して指導しないと,どちらかに偏ってしまうことがあるからである。

平成7年3月,雑誌に掲載されていた『日本言語技術教育学会』第4回大会へ一人で出席した。国語科で何をどう指導するのかという課題を解決したかったからである。言語技術や授業方法を学ぶことができることを期待して出席した。しかし具体的な言語技術,効果的な授業方法はよくわからなかった。野口芳宏先生を始め,向山洋一先生,市毛勝雄先生,明治図書の江部満編集長など多くの著名な先生方と出合った。このような著名な先生方が話し合われても国語科の言語技術,授業方法が具体的な用語としてはっきりしないことがわかった。

国語科の教科内容が具体的に明らかにされていないという問題がありそうだと考えた。

平成8年,第51回北海道国語教育研究大会岩見沢大会で作文授業を公開する。実践課題は「効果的な表現を工夫し、自分の思いや考え方を豊かに表現する力を育てる指導のあり方」だった。レトリックを指導し,それを使わせて文章をより豊かにさせるという方法だった。この頃は効果的な授業内容として構成の工夫やレトリックの使用を主張していた。

平成8年,野口芳宏先生が北海道教育大学函館校へ着任された。そして,平成9年11月に野口芳宏先生を招いた研究会を勤務校で開催した。野口芳宏先生から本格的に学び始めた。

(4)野口芳宏先生や研究仲間からの学び

野口芳宏先生が函館校へ着任された3年目から野口芳宏先生の研究会へ出かけるようになった。3年間での学びの機会は50回くらいにも及んだ。形成学力を明示する野口国語に傾倒した。野口芳宏先生が北海道教育大学を退官される平成13年3月まで集中して学んだ。

野口芳宏先生からの学びをここでまとめることは難しい。あえて書くとこうなる。

 

国語科授業は「『見える学力・使える技術』を身につける」必要がある。更に「学力形成こそが授業の眼目であり、目的であり、内容」である。[2]

 

全国大学国語教育学会で刊行した『国語科教育学研究の成果と展望』では「話すこと・聞くことの学習指導方法に関する研究の成果と展望」で野口芳宏先生が紹介されている。しかし野口芳宏先生の主な業績としては国語科全般での授業方法論や国語学力論にあるだろう。

授業方法論として例えば次の2つを学んだ。子供の「不備・不足・不十分」から授業を展開するという過程の工夫,形成学力としての学習用語を必要に応じて指導するという提示の工夫である。授業内容,授業方法(導入,展開,まとめの過程)など多くのことを学んでいる。ただ,各学年で指導すべき国語学力が具体的にはよくわからなかった。

この時期,「研究集団ことのは」の研究会へも出席するようになった。そして学習指導要領が発行された翌年から,堀裕嗣先生の御提案で小学校教師を中心とした学習会を毎月行った。平成10年4月から平成14年4月の施行へ向けて小学校国語科1377時間の授業プランづくりに取り組んだ。国語科での技術(術語と呼んでいた。)とは何かを考え続けた。

この時期から大谷和明先生のサークル,法則化(現TOSS)Free Talkにもお世話になる。

(5)大学院在学時

野口芳宏先生の言語人格,話術,授業方法に憧れ,学び続けた。そして形成学力,言語技術をより具体的に明らかにしたかった。しかし教務主任で6年生を担任していた私には考えるゆとりがなかった。少しでも国語を専門的に学びたいと考え,通信教育で国語科免許取得のための単位を修得した。そして高等学校での実習を終え,中・高の国語免許を取得した。

更に学びたいと考え,北海道教育委員会の派遣事業に応募した。そして北海道教育大学大学院札幌校・岩見沢校へ入学した。野口芳宏先生が北海道を離れた平成13年4月である

大学院では国語科教育,教育学,心理学,言語学の本を読んだ。人は言語をどのように認知するのか。言語を認知する方法がわかれば,言語を認知させる効果的な授業方法を提案することができると考えた。そこで認知言語学のカテゴリー化を授業方法へ援用した。

その夏,何の言語を研究対象に絞るかで迷った際,集中講義で函館にいらっしゃっていた野口芳宏先生に御指導戴いた。技術を知識化した「学習用語」の体系化がよい,との御指導である。こうして国語科の授業内容としての学習用語を系統化し,効果的な授業方法の一つとしてのカテゴリー化での体系を修論でまとめた。[3]指導教官の清野隆先生には修論をまとめる際に,何度も御指導戴いた。更に千葉大学名誉教授の宇佐美寛先生にも御指導戴いた。

拙論を明治図書の江部満編集長が認めてくださり,その一部を出版させてくださった。

3 学習用語のカテゴリー化で効果的な授業方法を提案する

『〈学習用語のカテゴリー化〉で〈国語学力〉を育てる』(柳谷直明,明治図書,2004年3月)で国語学力を学習用語として提案した。しかしこれは一つの提案である。授業では子供の実態に必要な学習用語を指導する。したがって授業ごと,言語活動ごとに学習用語を厳選する。私が提案した学習用語の妥当性を検討する必要もある。更に授業における学習用語のカテゴリー化の授業方法も検討する必要がある。これらが現在の課題である。

学習用語を板書することにより,形成学力を明らかにすることができる。しかし国語科授業のたびに学習用語を板書するだけのでは子供が飽きてしまう。

宇佐美寛先生は「具体的情報」(『教育科学・国語教育』2005年2月号,7ページ)で仰る。

 

 四、授業は具体的情報から始める。抽象的な言葉は、具体的情報との関係が明らかである限りでのみ使う。それも終りに近い段階で、なるべく少なく使う。(この拙稿の構造もそうである。)

 

具体的情報から始める楽しい授業を行いたい。そこで平成14年3月から活動を停止していた「鍛える国語教室」研究会の学習会を勤務校で始めた。そこでは学習用語を明示した楽しい授業に挑戦している。保護者,小学生を含め20〜30名の方が月2回集い,学び合っている。

楽しい言語活動を通して,子供に必要な学習用語を明示する15分間程度の授業を教師が行う。小学1年生から6年生の子供達,更に保護者が90分間休みなしで学んでいる。それだけに授業を行っている我々教師も真剣に教材・授業開発に取り組むことができる。

最近,次の書を刊行した。『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』(全8巻,野口芳宏監修,柳谷直明,「鍛える国語教室」空知ゼミ,明治図書,2005年10月)である。その巻頭で野口芳宏先生は次のように書いてくださった。

 

国語科のこれまでの授業が,国語学力形成の大本になる必須の「学習用語」と,それを生かす「ルール」をほとんど解明せず,教えもせずにきたからではないか。これが私の「仮説」である。そのことを漠然と感じてはきたのだが,具体的な解明に挑むことにはついついためらい,泥んできた。何とかしなくてはいけない,という思いが頭を領しているだけだった。解明の一歩を全く踏み出さなかった訳ではないが,捗々しい進展はなかった。その難事に挑んだのが本書の著者,柳谷直明先生である。

 

この本に「学習用語一覧」を書いた。言語活動を教材とし,その言語活動を通して指導する事項を学習用語とした。言語活動と学習用語を厳密にわけることは難しい。しかし言語活動と学習用語をわけなくては指導事項が明確にはならない。このように教えてくださったのも野口芳宏先生である。授業内容である学習用語と授業方法である言語活動をわけたことで,教材集を作成することができた。言語活動を教材とし,指導事項を学習用語とした。

学習用語による国語学力の具体化は私の業績ではない。野口芳宏先生の業績である。「学習用語」にしても「ルール」(私は定型と呼んでいる。)にしても野口芳宏先生の授業から学んだことである。野口芳宏先生に学んだことで,授業内容・授業方法を提案することができた。

学習用語のカテゴリー化は楽しい言語活動で国語学力を保障する効果的な授業方法である。



[1] 今回の発表は難波博孝先生のお蔭で実現した。このような発表の機会を頂戴したことに対し,心から感謝申し上げる。

[2] 同。

[3] 2002年度教科教育専攻学位論文『小学校での言語教育を成立させる学習用語のカテゴリー化とその獲得』北海道教育大学大学院2003年1月14日受理。