2006.7.7(金)
連載7 マスターカードを開発する1
『メモ・マスターカード(俳句)』を開発する
~学習用語で誰でも簡単に句作を指導できる~
岩見沢市立美園小学校 柳谷直明
Ⅰ 新企画『メモ・マスターカード』
『プランくん』が普及していない。日本言語技術教育学会第15回大阪大会での模擬授業の際に痛感した。
野口芳宏主宰に学んでいない方はこのメモ用紙を見たことがないだろう。ところが何と,野口主宰に学んでいる方も『プランくん』の使い方をよく知らないようだった。それは普及に努力していない我々の責任である。
『確かな国語学力(基礎・基本)を育てるマスターカード』(野口芳宏監修,柳谷直明著,「鍛える国語教室」研究会空知ゼミ著,2005年10月)に多くの『プランくん』の使用例を入れた。複写できるように『プランくん』原版も入れた。しかし,『プランくん』をよく知らない方には使いづらいだろう。
そこで『マスターカード』や『プランくん』を使った授業をどんどん公開する。そして,『プランくん』の使用例と共に『メモ・マスターカード』として教材も一緒に開発したい。
『プランくん』をこのように使うと国語科各領域の言語活動を適正にするメモが書けるという教材である。子ども達をメモの達人に育てたい!
読者の皆様,『メモ・マスターカード』開発にも御協力を願いたい。
Ⅱ 授業記録『メモ・マスターカード(俳句)』(視聴覚室,2年生78名,2006.7.7(金)2校時目,記録釜谷いずみ氏)
1 学習用語を問う発問での導入
生活科の時間,外で遊ぶ予定だった。しかし天候が悪かった。そこで久し振りに学年合同の国語にした。
たぶん他の学級ではそんなに俳句を作っていないだろうと推測し,俳句の授業を実施した。
『メモ・マスターカード(俳句)』(自作)を使用した。
① 姿勢を正して,礼。
「俳句」と板書する。
1 俳句で学習したことを発表。
② 俳句は五・七・五でできている。
2 5・7・5で足すと?(「17音」と板書する。)
③ 季重なりはだめだと思います。
3 他。
④ 季語を入れる。
4 ということで季語を入れるということね。一つだけ。
⑤ 上五・中七・下五
5 もう一つ,なぜ俳句をつくるのかということ。
⑥ お笑い。
6 お笑いなの?
⑦ 作ってみようかな~って作った?
7 時間がたつと忘れちゃうでしょう。だから書いて,大切な思い出を残す。
何を残すのかと言うのも大事だ。さっきお笑いと言った子がいる。くだらないことを残しても仕方ない。昨日,詩を書いたときにも言った。自分にとって大切な思い出を書いておけば,残すことができる。特に(「感動」と板書する。)自分の心の動きを残す。
作文だと時間がかかる。だから,短い俳句を書く。
国語学力形成技法1~学習用語の行為化~
子ども達の発言を見る。「五・七・五」,「季語」,「気重なり」,「上五・中七・下五」という学習用語を発言している。これは学習用語を発言という活動で運用している。学習用語の一つの行為化である。このような用語を学習用語として指導する。そして,子ども達に使わせる。学習用語を指導しておくと,それを子ども達の発言で行為化させることができる。
しかしこれは,学習用語自体の行為化ではない。学習用語を知識として行為化している段階である。さらに学習用語が示す行為を適正にさせるのが次の段階である。それが安定的に行われるようになれば技術が身に付いたといえる。句作で学習用語を行為化させる。
国語学力形成技法2~言語活動の価値を伝える~
この子達は素直である。だから俳句を書くよ,と言えばはいと言う。しかし,ただ書かせるだけでなく,価値ある思い出を残させたいという句作の一つの目的を知らせたい。だから,このような話をした。*
2 句作1~思い出を五音にする~
『メモ・マスターカード(俳句)』を配付する。
8 思い出を残したいでしょう。だから,書く。
9 名前書いた人,手を挙げる。よしよし。
10 全員起立。最近の一番の思い出,このことを残しておきたいという思い出を決めて座る。友達との思い出でもよい。学校との思い出でもよい。柳谷先生との思い出でもよい。家族との思い出でもよい。プールや習い事の思い出でもよい。
全員座ってから次に進める。決まらない子には遠足での思い出,運動会での思い出と決めてあげる。いつまでも決めかねている子を待っていると授業が進まないからである。
11 ラベル欄,メモの仕方。①から音読どうぞ。
国語学力形成技法3~『プランくん』の使用法指導~
このような指示で子ども達は動き出す。『プランくん』を使っていない子どもではこうは進まない。「ラベル欄」,「ナンバリング欄」,「ブランチ欄」を指導する必要がある。しかし,短時間で指導し,先に進めたい。例えばこう言う。
「メモの仕方」と書いてある四角が「ラベル欄」。その下の①と書いてあるところが「ブランチ欄」だ。「ブランチ欄」の①から音読する。
⑧ ①左のページから季語を一つ選ぶ。/ ②感動した言葉を上五,下五に平仮名五音で書く。
12 そこまで。季語を決めてから書いてもよい。思い出を決めてから季語を選んでもよい。思い出と季語が全く違うとおもしろくない。
上五,下五のところに,五音ずつ思い出を書く。平仮名だよ。どうぞ。
13 丸の中に書いていくの。「みずのなか」とかね。
⑨ 誕生日でもいいの
⑩ 柔道は?
14 誕生日はちょうど五音だ。柔道だと四音なので,柔道でのように何かつけて五音にする。
15 一つも書けてない人,起立。(5人ほど。)さっさと決めて書きなさい。思い出の言葉だよ。さあ,あと2分。五音を超えるものはまだ書かない。七音とか書いている人,駄目だよ。
いつまでも決められない2人に対応する。何でもいいんだよ。何の思い出にしたの?声をかけている。
16 もう書けないくらい五音書いた人いるか?
あまりいなかった。
17 やめ。鉄棒でとか,跳び箱でとかでいいんだよ。
意外と書けない子がいた。思い出という言葉がよくわからなかったのかもしれない。
国語学力形成技法4~列挙させる~
野口主宰からよく教えて戴いた。「列挙ー取捨ー整序」の技術である。
一つ書きなさい,などというからなかなか書かない。3つ書きなさい。たくさん書きなさいと言う。すると書き出す。つまり列挙させるのだ。
気軽にたくさん書かせる。それでも書かない子は書かない。その子には個別指導が必要である。しかし,多くの子はたくさん書きなさいというと書き出す。最初から上手く書こうなどと考えさせない。たくさん書いているうちにいいことばが出てくる。それを選場セルとよい。
列挙させてから,取捨,整序させる。
3 句作2~季語を五音か七音にする~
18 起立。裏。今は7月なので,夏の中から季語を選ぶ。本当はもっとたくさん季語がある。しかし,この中から選ぶ。さっきの思い出と似ているか似てないか,という季語を選んだら座る。夏って書いてある所全部から探しなさい。
19 よくわからない人は夏の風とか,夏の音とか。夏って言う言葉をつければ夏の季語になる。
20 さあ,決めない人は作れないぞ。季語を決めた人は,季語のところに書いてごらん。五音か七音にするんだよ。
21 はい止め。そこで大事なのは,(「季語―」と板書する。)季語が何音になるか何だよ。季語が五音になった人は下5,上5のどっちかになるでしょう。だからあと,5音と7音が必要だ。季語が七音になれば,あと五音と五音が必要。みみず,とか季語が三音だったら,二音足して五音にするんだよ。運動会,とかは六音だから,上五,下五には入らない。
22 季語を五音か七音にした人は座っている人に季語は何にしたの? と聞いてあげなさい。季語書いた人,立ちなさいよ。
できた子とできていない子が明確になり,相互で助け合っている。このような学習集団を育てる活動をどの授業でも取り入れている。できた子が教えるのはできた子を遊ばせないという消極的な目的だけでなく,できたこの理解をより深くするという積極的な目的もある。
22 止め。まだ季語書いていない人,起立。早く決めなさい。(3人。)夏の風とかにしておきなさい。
23 さあ,いいか。これでいよいよ俳句ができちゃうの。まだ中七とか書いていない人は,七音を作るの。さっき書いた五音に二音足して七音にするの。季語が七音の人は,さっきの五音を二つ使う。似ている言葉でもよい。似ていない言葉を並べてもよい。似すぎてもおもしろくない。あまりにも似ていなくてもよくわからない。季語と思い出をつなげて俳句にする。
国語学力形成技法5~全員参加を保障する~
遅れている子を待ち続ける。すると早くできた子が遊び出す。このような状態から学級崩壊になる場合がある。だから,遅れている子にさっさと活動させる。能力的に遅い場合には途中で止めさせる。しかし判断できないでいる場合にはこちらから判断をうながす。
4 句作3~全体の場で批評する~
24 できた人,起立。今から発表してもらう。できていない人はそれを聞いて参考にするんだよ。はい,どうぞ。
⑪ うちわ持ちバトミントンで汗をかく
25 それは団扇が季語か。
⑫ 汗。あ!
26 団扇と汗で季重なりだ。どちらかを変える。
⑬ 夏の月
27 それだけじゃなくて,そこに七音と五音を続けて俳句を完成させるんだよ。
⑭ 親子レク涼しい風が吹いてくる
28 いいねえ。
⑮ みみずいたリズムやってて気持ち悪い
29 リズムのときだ,と変えてもいい。気持ち悪いだと六音なので,気持ち悪で終わってもよい。言葉としてはあんまりよくないけどね。
⑯ こいのぼりゆらゆらゆれるきもちそう
30 気持ちそう? 気持ちよさそうって言うこと? それなら「気持ちいい」にしなさい。省略したんだろうけどね。
⑰ 夏草に飛び込んできたよメロンパン
31 「飛び込んできたよ」ではなくて,「飛び込んできた」がよい。七音にする。季語と「メロンパン」が全然関係ない言葉だけどね。おもしろい。
⑱ サッカーを始めてみたら暑さでた
32 「暑さ」が季語だね。いいよ。
33 という感じで,できた人は俳句1に書くんだよ。更にできた人は俳句2,俳句3と書いていく。
34 止め。五・七・五の十七音にするために平仮名にしなさいとさっきは言った。でも,俳句にするときには,漢字を使った方がよい。運動会も三文字だけど音としては六音になる。漢字に直せるものは直した方がよい。どうぞ。
できた子が先生に俳句を見せに行く。板書を全て消し,見せた子から俳句と名前を黒板に書いていく。
35 もう書けなくなったからよい。近くの人に見てもらって,こういうところがいいよ,って褒めてもらう。
国語学力形成技法6~全員の前で批評する~
全員の前で批評すると問題点の指摘になるのでかわいそうだという声が聞こえてくる。しかし,そんなことはない。子どもは否定して伸びる。いや,否定されて伸びるということを自覚させる。
ここで発表している子は早くできた子である。早くできた子は他の子に対して優越感を持っている。それだけに,自分の句の問題点を否定されると悔しく思うだろう。しかし,早くできたからこそ,このように先生に直して戴けるという価値を普段から指導する。すると,否定されて,修正されてよかったと批評の価値を正しく認める子どもが育つ。
5 句会~選句して学び合う~
36 止め。(板書を指す)句会。みんなのおじいちゃんとか,句会へ行っている人いない?
先生が以前に俳句を書いていたときは,ひと月に一回くらいみんなで書いた俳句を読見合っていた。そしてどれがいいかな,って言うのを決める。おもしろそうだろう。
37 本当は何人かを選ぶ。しかし,今日は時間がないから1つだけ選ぶ。先生がざっと読むから,一つ決める。
ざっと全部の句を読む。その後,もう一度読み,挙手させる。句の上に数を入れていく。
38 どうなった? すごいね,大井ちゃん。「お勉強そのとき風が夏になる」が1位か。
2位が「親子レクすずしい風がふいてくる」健介君だ。
3位が「かせきとりたのしいけれどミミズいた」すごい,みんな3組だ。
4位が松尾君。5位が七菜ちゃん。では,このようにもう少し作る。始め。
39 必ず一つ以上は書きなさいよ。作品。班長が集めなさい。
40 班長さん,確認しなさいよ。書いてない人いるよ。
⑲ 姿勢を正して。礼。
<板書1>
俳句
・
五 七 五の十七音
・
季重なり
・
季語を一つ入れる。
・
残す。
・
感動を書く。
季語 ― 5音 7+5
- 7音 5+5
<板書2>
句会
ミミズいた リズムのときに きもちわる 潤
たん生日 すずしい昼だ うれしいな つよし
かっこうが 鳴いているとこ 見たかった 准
郭公が おいわいしたよ ありがとう 西村
親子レク 涼しい風が 吹いてくる 健介
海の中 とびこんできた とびうおだ 七菜
こいのぼり ゆらゆらゆれる きもちいい ゆい
涼しい日 みんな公園 友達と ひなの
夏休み 自由研究 楽しいな ありさ
夏草と とびこんできた メロンパン ひかる
かぜかおる バトミントンで たのしいな こなつ
リズムをね うちわをもつよ たのしいな 風花
団扇もち バトミントンで 1位だよ 恵里佳
すいえいで くるしかったよ あおがえる
すずしいな 水の中まで およぎこむ
かせきとり たのしいけれど ミミズいた 亮介
お勉強 そのとき風が 夏になる 大井
なつのおと たいこひぼくよ かぜのおと
7月に しゅうじするよね たのしいな 歩花
じゅうどうに ねわざかけてる すごいわざ
Ⅲ 学習用語を明示するマスターカードの効果
この授業は句作1時間目ではない。5時間目くらいである。句作2時間目で全員が作品を完成させた。そして,今回のマスターカードで学年の子ども全員が書いた。それは学習用語を明示したマスターカードの効果である。
普通の指導手順では俳句の鑑賞から入るだろう。しかし私はそうしなかった。なぜなら,「プランくん」でのメモから句作にすぐにつなげたかったからである。
作品としては問題がある。2年生が書いた句だからである。しかし,五・七・五のリズムに載せて作品をどんどん書いている。
以下,この授業での私の学級の子の作品である。今後も句作を楽しみたい。
団扇もちバトミントンで一位だよ 恵里 |
ミミズいたリズムのときにきもちわる 宇 |
サッカーをはじめてみたらあつさでた 村 |
すいえいでくるしかったよあおがえる 純 |
リズムをねうちわもとよねおもしろい 風 |
なつのあじたべてみたいないちごあじ 早 |
ひかるうみみずのなかではすずしいな 滉 |
夏草にとびこんできたメロンパン ひか |
なつくさであそんでいる子たいへんだ しょ |
すずしいなみずのなかまでおよぎこむ 美 |
郭公がないているんだなきもちいな り |
かっこうが鳴いているとこ見たかった じ |
りょう風がかぞくみんなでキャンプ行く り |
きりぎりすとってみたらかじられた 竜 |
七月にしゅうじするよねたのしそう 歩 |
かたつむりしおからかけるしんじゃった たく |
郭公がおいわいしたよありがとう 茉 |
すずしいひみんな公園ともだちと ひな |
たんじょうびひとがいっぱいなつのこえ 大 |
なつのそらとんでみたいよおちてきた 三四 |
なつこだちたのしそうだなたんじょうび 滉 |
すずしいなもりにパンダがいるかもね 里 |
山のぼりみんなのぼった夏木立 拓 |
あやめさくきれいにさくよたのしいな 康 |
こいのぼりさんにんいるよなつのこと 里 |
学習用語を明示するマスターカードで国語の授業を改革しよう。多くの皆様の実践をお寄せ戴きたい。あわせて「メモ・マスターカード」の開発に御協力戴きたい。書かせたいメモを『プランくん』に書く。そして『プランくん』のラベル欄だけを書いて用意する。これだけで完成である。
お待ちしている。
釜谷いずみ氏の記録のおかげで,授業をこのように残すことができる。心から感謝したい。この日も授業記録をお願いするつもりは無かったが,たまたまパソコンを私が持って歩いていた。そこで授業記録を打ってくれた。
その授業記録を読みやすく多少修正している。
語批評戴けると幸いである。
* このような話を文話というようだ。「文話」とは「教師が児童・生徒に,文をつくろうとする欲求を起こさせるように誘導し,さらに進んで,文をつくる上に必要な知識とか,表現技術を付与するためにする話。そのほかよい文とはどのような文であるかを,見分けるための条件とか,文鑑賞の態度などについてする話を『文話』という。要は,文章観の確立をはかるための,いろいろな内容をもった話である。」とある。なお,こうも書かれてある。「別に,児童の読み物としての文話集はいろいろ刊行されているが,教師の指導参考用としての著作はまれである。今後実践家によって,実践の集積としての文話集が,続々刊行されていくことが望ましい。」(佐々木秀雄著「文話」『生活綴り方事典』日本作文の会編,明治図書,1958年9月,139-140ページ)