『鍛える国語教室』11,2006年秋号での連載見本。または共著の執筆見本。2006年9月UP。
特集1 学習用語(国語学力の基礎・基本)を指導し,子どもを熱中させる作文授業の開発と実践
『思い出作文マスターカード』の授業〜
北海道岩見沢市立美園小学校 柳谷直明
T 指導事項〜次の形成学力を全員に保障する〜
1 言語活動として随筆を扱う〜文種の系統性〜
「思い出作文」とは何か。これは,『作文力マスターカード』(野口芳宏監修,柳谷直明+「鍛える国語教室」研究会著,明治図書,2006年12月刊行予定)の第T章の教材である。
第T章は次の系統である。
T 文学的文章の系統5教材〜主に国語科で扱う文種の作文教材〜(26ページ)
bP 表記マスターカード
bQ 紹介作文マスターカード
bR 思い出作文マスターカード
bS 詩歌作文マスターカード
bT 物語作文マスターカード
bU 読者感想文マスターカード
「文学的文章」は「主に国語科で扱う」教材である。したがって,国語の教科書に掲載されているような文章だと考えてよい。しかし,国語科の教科書に「思い出作文」などは無い。いわゆる生活を書いた作文になる。文種としては随筆になるだろう。
このような作文ばかりでは,子どもの文章力が育たない。いろいろな文種を書かせる必要があるからである。しかし,このような作文も書かせる必要がある。自分にとっても最高の思い出を残すというのは作文の目的の一つでもあるからだ。
1年生の1学期では,この教材は使えないかもしれない。文字を覚えたばかりだからである。しかし,2学期に夏休みの思い出として書かせる際に使えるだろう。同様に2年生の1楽器や2学期に大切な思い出を残そうという目的で使うことが出来る。さらに,学期末にも一年間を振り返らせて一番の思い出を書かせる際に使える。
どうせ書かせるなら一番の思い出である。どうでもよい思い出を書かせるのは,時間が無駄になってよくない。
今回は夏休みの一番の思い出を書かせることにした。
2 言語活動を適正にするための形成学力がこれだ
練習ページの形成学力は「1分間で200字の音読速度と1分間で20字の視写速度」である。練習ページでは,これに到達していると100点になる。
本番ページでは次の学習用語の行為化が形成学力である。
ラベル欄,ブランチ欄,短く,順番,敬体,丁寧,句切り符号,助詞,改行段落,一字下げ,題名,工夫
10以上ある。しかし,一つの項目に2つ入ったりしている。全部で10項目を覚えさせてチェックさせる。これは覚える段階である。さらに,メモや作文でこれらの学習用語を適正に行為化させる。そして最後に,自己評価として学習用語の行為化を点検させる。全部の項目にある学習用語を使ってメモや文を書いていれば100点である。もし出来ていなくても,赤で書き加えたり,書き直したりすればよしとする。
これらの学習用語を覚えさせ,安定的に行為化させるのが形成学力である。きちんと行為化ができていれば,学力形成を保障したと言える。全員の学力形成の保障を目指す。
U 授業記述〜9月12日(月)2時間目,岩見沢市立美園小2年2組27名〜
1 作文例で音読を鍛える
@ 姿勢を正して,礼。
1 あのね,ちゃんと姿勢を正しているか,確認しなさい。言うだけじゃなくて。
A 姿勢を正して,礼。
2 全て仕舞う。
3 作文に自信がある人。ちょっと手を挙げる。
4 9人の他の人は自信ないの? 理由を発表せよ。
B 書き方がわからない。
C 間違うかもしれないから。
D 漢字を使えない。
E 助ける言葉とかを間違える。
F 字を間違える。
5 とにかくね,たくさん書くことだ。はいどうぞ。(マスターカードを配付する。)
6 『思い出マスターカード1』四角1から音読。
G 「四角1,左の作文例を音読する。」
7 題名から音読。
H 「こわかった夜,木村ふう,『キャー。』/ 私は叫びました。」
8 ちょっと,それが叫んだ声なの? もう一度題名から音読。
I 「こわかった夜,木村ふう,『キャー。』……。」(上手になる。)
9 これを1分以内で音読できたらよい。起立。題名から音読,始め。
J 「こわかった夜,木村ふう,『キャー。』……。」(各自の速度で音読する。)
10 できたら塗ってよい。20秒,35秒……。おお,全部終わったの? 40秒でみんな終わった。
11 たく君起立。最初から音読。
K 「こわかった夜,木村ふう,『キャー。』……。」(一人で音読する。)
12 よし,56秒。さっきはでも40秒でみんな座ったんだから,たく,(さっきは)ちゃんと読んでいない証拠だよ。自分の速度でちゃんと読みなさい。塗っていいよ。
自己評価だとできていなくてもできているにする子がいる。そこで,いつもできていないような子は,特に個別に評価した方がよい。誰かに聴いて貰うという相互評価も,ときには入れるとよい。
2 1分間視写で20字書いた!
13 四角2,音読どうぞ。
L 四角2,左の「思い出作文」例を1分間で視写する,「キャー」から書く。書けない漢字は平仮名で書いてもよい。1分間で20字を目指す。
14 用意,始め。
「用意」も言わなくてよい。子どもは迷わず書き出す。これは1年生から何度も視写をさせているからである。初めても行う場合でも,余計な説明をせずに「始め」と言う。すると,よくわからない子も周りを見て書き出す。
次のように個別指導をしながら机間巡視をしている。「句読点を抜かすと,ずれるんだよ。速い人は丁寧に書く。」
15 止め。(止めの声と同時に,子どもは文字数を数える)
16 20(字)いかなかった人? 何字?
L 19……。
6名が20字に到達しなかった。1年生の3学期には到達していたのに,訓練していないとこのようになる。言語活動は日常的にさせていないと稚拙になる。訓練していると1年生でも10分間で400字詰め原稿用紙1枚を書けるようになる。逆に訓練していないと6年生でも10分間で400字詰め原稿用紙1枚を書けない子もいる。何年生でも訓練する必要がある。
17 2回目,始め。
数名の作文を見て歩く。「会話文の下は,空けるんだよ。」などと指導している。
18 止め。
M さっきよりは少し上がった。(呟き)
21 書いたら鉛筆置く。20以下なかった人? 立つ。
N 15……。
2名が20字に到達しなかった。何度か『作文力マスターカード』で書かせるうちにできるようになる。今回は2年生になって,初めて『作文力マスターカード』を使ったから書けなかったのだろう。
22 もうちょっと速くなるようにがんばりなさい。
23 20台起立。6人。
24 30,10人。
25 40,5人。
26 50,3人。
27さっきより増えた人起立。拍手。
全員が挙手していた。これが向上的変容である。到達目標に達しなくても,個人の向上が重要である。少しでも伸びたら向上的変容である。出来ることより伸びることを誉めたい。
3 『プランくん』のメモの仕方を覚えよう
28 四角3,音読。
O 四角3,ラベル欄とブランチ欄のメモを音読する,左から右へ読む。
29 どうぞ。
P 事件,かみなり,一番こわかった,ないた。人物,私,お母さん,場面,いつ,夏休み,どこ,家,だれがどうした,私が叫んだ,心情,こわかった,なぜ平気なの,会話文,キャー,何なの,かみなりよ,書き出し,会話文,叫び,
30 30秒以内で読む。始め。
Q 事件,かみなり,……。
27 よし,10秒,……30秒。全員,出来た。ではもう一度挑戦するよ。事件,かみなり,と読んでいけばいいよ。始め。
28 よし,まさしがんばったね。
29 では,今下に丸が4つあったね。全部ぬれたら100点。上に100点と書いておく。1個ぬれなかったら75点,2個ぬれなかったら50点。
4 「思い出作文」を適正に書かせる学習用語だ
30 裏。学習用語カード,四角1から音読,
R 四角1,メモのための学習用語(太字)を音読する。覚えたら四角にチェックを入れる。
31 ラベル欄,ブランチ欄,短く,順番
32 起立。2人に聞いて貰う。ただ言うだけじゃなくて,ここがラベル欄,ここがブランチ欄,と説明する。始め。
S 聴いて頂戴。ここがラベル欄,……。
33 座った人,(もう一度)聴いてあげる,ちゃんと。
34 四角2.
21 四角2,思い出作文のための学習用語を音読する。覚えたら四角にチェックを入れる。敬体,丁寧,句切り符号,助詞,改行段落,一字下げ,題名,工夫
33 起立。聴いて貰う。
34 さあ,あと1分で覚えるの終了。
35 座っている班,速い。✓していいんだよ。四角3,音読。
5 ラベル欄を先に書く
22 四角3,左の学習用語を使い,10分間で思い出作文メモを書く。
36 ラベル欄に何を書くの?
23 事件。人物。
37 事件とか,人物とか,どんどん書くよ。(「学習用語カード」に)書いてあるよ。そこをよく見なさい。さっきのを見なくてよい。ここに書いてあるよ。(「学習用語カード」の四角1,ラベル欄の隣を指す。)
38 書けたら教えてあげなさい。
39 鉛筆置く。起立。ではね,何を書くの?
24 メモです。
6 一番の思い出を決める
40 メモを書くんだけどね。最後は夏休みの思い出作文を書いてほしいんだよね。夏休みの中の一番の事件,楽しかったこと,それを書く。いつどこで,が場面。誰が出てきたか,が人物であり,どう思ったか,が心情。決めたら座る。始め。
41 まだラベル欄書いていない人も,どんどんブランチ欄を書く。
42 夏休みの思い出これ,って決めて,座る。いつまでも立っている人は続かないよ。
43 友達と遊んだことでもいいよ。
44 心情は面白かった,楽しかった。でもなぜなら,って詳しく書きなさい。
45 止め。全員起立。必ず会話文を入れなさい。さっきの「キャー」とかあったでしょう。誰かの話を思い出す。誰かの話を入れなさい。決めたら座る。
46 止め。書き出しは最初何を書くかってこと。会話文から書くか,事件から書くかってこと。事件から書きたいって言う人は,事件に1と書く。ナンバリング欄,会話文の人は,会話文に1と書く。1,2,3,4と書く。
7 メモがあるから誰でも書ける
47 では,今のメモを見ながら四角4。
25 四角4.思い出作文のための学習用語を使い,10分間で書く。
48 小段落はたくさん作らない。最近やっていることを意識して。メモをちゃんと文にするんだよ。始め。
10分間,作文を書き続ける。止まっている子に「どんどん書く。」と助言している。個別指導で改行段落が多いとか,会話文の下に続いているとかの問題点を指摘している。
40 人物とか,事件とか,ラベルの言葉は使わなくていいからね。
5分経過で,規定作文用紙(300文字)からはみ出す子が数名いる。
41 止め。数えて。
子ども達は字数を数える。文字数が多いので,行数を数えさせた方がよい。
42 止め。数えるの後にしよう。あのね。最後一番左側の下を見ると,評価カードと書いてある。四角5音読。
26 四角5,右の思い出作文メモや思い出作文を上野学習用語で推敲する。そして出来ている学習用語の丸にチェックを入れる。できていなかったらメモや作文を直す。一つの学習用語で十点だ。全部できていたら100点だ。自分で点数を付ける。
43 敬体と書いてあるけど,常体なら常体で最後まで統一していればチェック。上のラベル欄のところもチェックするんだよ。丸に何個チェックは入ったかな。
27 100点。
子どもは100点だと喜んでいる。しかし,これはかなり怪しい。したがって,さらに推敲させて,清書させた方がよい。
44 では,今日の学習作文マスターカード楽しかったな,って言う人。(全員が挙手する。)
45 これを使ってもちょっと書けなかったって言う人? いないな。
46 よし,終わる。
28 姿勢を正して,礼。
チャイムが鳴り終わる前に終了する。マスターカードを回収する。
V 授業成果〜このように向上的変容を評価する〜
やはり子どもは『作文力マスターカード』で楽しんで文章を書いた。しかも,全員が書いた。ところが授業者としては,いくつかの問題点に気づいた。以下,列挙する。
1 授業技術をこうする
@子どもの作業中の教師の助言がうるさい。小さな声で助言するならよいだろう。小さな声で助言しているつもりである。しかしまだ,私の声が子どもの作業の邪魔になっているだろう。作業中に話しかけるのにも気を付ける。
A実行ページの授業の進め方を再考する必要がある。確かにマスターカードに書かれている設問を読むだけでよい。しかし,学習用語を覚えることと学習用語を使うことの間には大きな抵抗がある。そこで,4で作文を書かせる前に学習用語を板書するとか,改行段落は,会話文では,などと確かめてから進める方がよいだろう。しつこく解説しない。しかし,ここぞというところでは念を押す。
B板書を書かなくてよいか。書くとしたら言語活動名,学習用語の重点だろう。これも最近の授業のように,教師が書き出しを板書してもよいか。文例があるから書かなくてよいか。
Cナンバリングが抜けている。どの順番で作文を書くかを決めさせてから,メモにナンバリングをさせる。これは低学年教材ではあまり重視しなかった。しかし,できれば扱いたい。
2 教材解釈をこうする
@作文に学習用語を書いている子が多かった。例えば「事件は〜。」「登場人物は〜。」である。これは読書感想文を書かせていたときの影響である。読書感想文では,このように学習用語を使って分析するのはよい。しかし,随筆では使わない方が読みやすい。使って悪いわけではない。しかし,随筆のような文学的文章では,学習用語のような抽象的な言葉を使うわ無い方がよい。学習用語を書くと硬い文章になる。
A会話文で改行することができていない子が数名いる。個別に教科書の視写などで会話文の改行を指導するとよい。個別ではなく,全体でもよい。1分間視写を3回くらいさせると向上する。
B私の学級では2年生から常体で書かせている。野口先生は3年生くらいから常体でよいとおっしゃっている。そこで『作文力マスターカード』の小学3〜4年生用からは常体で書かせるようにした。今回は敬体という学習用語を指導して,そのまま進めた。だから,子どもは常態か敬体か混乱していた。敬体と書いてあるが,君達は2年生の始めから常体で書いている。したがって,常体で統一せよと指導すべきだった。学級の実態に合わせて,敬体か常体で統一させて書かせたい。
C1分間で200字の音読速度は評価できる。しかし,10分間で200字の作文速度は評価できない。なぜなら,数えるのに時間がかかるからである。したがって,作文を回収してから数えるとよい。それにしても教師が煩雑になる。したがって,10分間で200字という目標を示すが,実際には10行を超えていればだいたい200字を超えたと判断してよいだろう。それほど厳密にしなくてよい。
3 言語技術をこうする
この記録は,釜谷いずみ氏が記述してくれた。だから,ほぼ私の発話が記録されている。これを読んでもわかるが,言葉がまだまだ多い。さらに削れる言葉を削る。初めて参観する実習生を前にしたので,解説気味の言葉がある。それらをさらに削れる。「ちょっと」とか「あのね」を削る。メモを書かせる際,作文を書かせる際にごちゃごちゃしてくる。作業が難しいので仕方が無いが,それだけに,作業に入る前に作業をきちんと整理させる。これは出来るだけ私の発話を換えないように校正したい。しかし野口芳宏主宰は読者に価値ある情報を提供するために,要らない言葉は削ってかまわないとおっしゃっている。出来れば,校正で削らないくらいの厳選された発話を目指したい。しかし,上手くいかなかった場合には,原稿にする際に削ってよい。しかし,あまりにも削り過ぎてしまうと授業記録ではなく創作になるので気をつけて貰いたい。
なお,今回も記録は釜谷いずみ氏にお願いしたい。心から感謝したい。このように作文実践を数本編んで1冊の本にする。低学年は釜谷いずみ氏に任せる。2007年1月15日締切りでお願いしたい。
W 子どものすてきな作品〜子どもの作品をそのまま掲載する〜
清書させてから添付する。